違和感のないスマートな仕上がり
「一寸法師(少年探偵版)」
（江戸川乱歩）ポプラ社
清水は好意を寄せていた
百合枝から、
失踪した継子の三千子の
捜索のため、探偵･明智小五郎を
紹介して欲しいと頼まれる。
明智は早速調査を開始するが、
出てくる証拠は、三千子の死と
その犯人が百合枝であることを
示していた…。
前回取り上げた
江戸川乱歩の｢一寸法師｣ですが、
ジュヴナイル仕様があります。
ポプラ社から出版された
少年探偵シリーズ全46巻のうち
前半26巻は乱歩自身が
ジュヴナイルとして執筆した
少年探偵団･怪人二十面相ものです。
そして27巻以降は、
乱歩の一般作品を
子ども向けにリライトしたものです。
巻頭の｢はじめに｣を読むと
江戸川乱歩名で書き直した旨が
書かれているのですが、
それを含めて乱歩以外の作家が
リライトしたらしいことが
知られています。
この27巻以降の作品、
明智登場作品以外も
明智ものに改編してあるため、
作品によっては筋書きが
ぎくしゃくしてしまったものも
あるのですが、
本作品の場合はもともと
明智が登場するため、
違和感のない
スマートな仕上がりになっています。
【主要登場人物】
清水紋三
…百合枝に恋心を抱いている。
明智の友人。
山野三千子
…殺害された山野家の娘。19歳。
運転手の蕗屋と恋仲。
山野百合枝
…三千子の継母。30歳。
山野大五郎
…実業家。46歳。
三千子の失踪後、病床に伏せる。
蕗屋
…山野家の運転手。
三千子と恋仲である一方、
小間使いの小松とも深い仲。
三千子失踪後、実家に戻る。
小松
…山野家の小間使い。
三千子の失踪後寝込み、
その後行方不明。
安川国松…人形師。
一寸法師…奇怪な行動をする謎の小男。
小林…明智の少年助手。
明智小五郎…私立探偵。
本作品のスマートな仕上がり具合①
小林少年登場、まったく違和感なし
原版に登場する明智の助手のうち、
名前を与えられている
斎藤･平田の役を、
何と少年探偵団団長の
小林少年が担当しているのです。
原版では斎藤･平田の二人が
どことなく唐突な感じで
登場しているのですが、
定番メンバーの小林少年に
肩代わりさせることで
自然な流れとなっています。
なお、小林少年の登場により、
本作品の主人公的な役割の
小林紋三の名字は
かぶらないように清水へと
変更されています。
また、捜査主任は中村警部が担当し、
より自然な流れとなっています。
本作品のスマートな仕上がり具合②
筋書きは同一、贅肉を絞った好展開
原版は新聞連載であり、
全体の構成が整わないうちに
書き始めたからでしょうか、
ところどころで冗長な部分が
散見されます。
ところが少年探偵版は
分量を減らす過程の中で、
余分な贅肉がそぎ落とされたような
印象を受けます。
展開がテンポよく進んでいきます。
本作品のスマートな仕上がり具合③
描写を抑制し、マイルドな仕上がり
少年向けですので、過激な描写は
かなり控えめとなっています。
百合枝が一寸法師から
いたぶられている場面をカットしたり、
使用人･小松を
山野の娘ではなく姪として、
山野の過去の浮気を
なかったことにするなど、
細かい部分にも気配りされています。
｢一寸法師｣への
侮蔑的表現もありません。
もっとも殺人が
一つ行われていることと、
死体の手足を切断したことなど、
本作品自体が猟奇性を持っているので、
致し方ない部分は残っているのですが。
ポプラ社の少年探偵団シリーズですが、
私は幸いにも
1997年頃の復刻版全46巻を
中古でセット購入できたのですが、
それ以後の
2005年頃に復刊した単行本全集、
2008年頃に復刊した文庫本全集、
ともに26巻までの復刊であり、
27巻以降は絶版が続いています。
私の年代であれば、なんとかして
再読したいと思っている方は
多いのではないでしょうか。
｢大人のための少年探偵シリーズ｣として
復刊しないものでしょうか。
※本作品における
その他の変更点として、
原版では山野邸来訪の折には
なぜか中国服に着替えていた明智が、
リライト版では
普通に洋服になっている、
ということがあげられます。
（2022.4.8）
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